春のお仕事 
    まずは種まき、それから田植え。
  選別と脱芒(だつぼう)
 どんな作物を栽培するにしても当然の事ながら「種まき」から始めるわけですが、前の年に取った種籾をそのまま蒔けばいいわけではなくて、蒔いた種が確実に発芽するように唐箕(とうみ)で風力選別して身の入ってない未熟米やゴミ等の異物を取り除きます。次に「枝梗」(しこう)、「芒」(ボウ)と言われる籾に付いている枝の部分を取り除いてやっと蒔ける状態の種になるわけです。(取り除く前は、籾にシッポが生えた「オタマジャクシ」の様な状態)
 浸種、種子消毒と出芽
キレイになった種籾を次に水に浸けて休眠状態から覚醒させます。それと同時に比重選、浮いた籾とすくって取り除き沈んだ籾だけ取り出します。植えずに直まき(直播)するときなど、もっと厳密に選別する場合は塩水選、玉子が浮くくらいの比重で選別します。「こんなに浮いてええんか?」ってくらい、コワいくらい浮く場合もあります。
 植物は普通、イネに限らず温度や日照時間等の気候(環境)条件に、例えば日照時間なら6時間x10日で60時間、温度なら30度x10日で300度温というような「積算値」を使います。イネの場合浸種の目安が積算温度で100度ですので「水温10度の水で10日」、「20度なら5日」と言うように行います。このとき最初に通常種子消毒も行います。(農薬の希縮倍数によって消毒時間は異なります。)種子消毒は「Dash村」もおなじみの「バカ苗病」や「苗立枯病」を防ぐ殺菌剤とと「イネシンガレセンチュウ」等用の殺虫剤を使用します。バカ苗病は今年Dash村で行っていたように薬を使わず「温湯消毒」でも発生を防止出来ます。
 最近では、温湯消毒や農薬以外に「菌」を使って種子消毒を行える資材が出てきました。何でもそこいら(アバウトな言い方やな)に居た「糸状菌」とやらを使うそうな。野菜なんかの天敵防除のような感覚でしょう。もともと土着菌でしょうしこれなら安全でしょうな。

こうやって浸種した種籾の目の部分が「ぷくっ」と膨らんだ「はと胸」状態になったときが蒔き時。しかし、私ら専業農家に限らず「段取り」っちゅうものを考えると蒔き時も「種籾まかせ」のパッシブ状態でなく「出芽機」で加温して作業日程に合わせる「アクティブ状態」にしています。(出芽機っていってもそんな「たいそう」なものでなく水槽の桶にヒーターと循環ポンプが付いているだけのもの。ま、種籾用のお風呂か熱帯魚の水槽のでっかいようなもの)。一般的な機械植えの場合、床土を入れた育苗箱に種を蒔きます。床土に土を使わずにマットと使用する場合もあります。

 育苗箱に種をまくための播種(はしゅ)機。床土を入れた育苗箱に灌水−播種−覆土の作業を順に行う。JAの育苗センター等で使っている最近のいい機械だと 箱の供給−床土入れ−灌水−播種−覆土−播種済みの箱の積み重ね までの作業を自動化出来る。
 けどウチでは、スペースの関係で物理的に設置不可能。床土入れの機械も連結不可能、これが限界。

 まともに収量を確保しようとすると、移植後の農薬は気候条件や物理的処理で極めて不使用に近く出来ますが、種子消毒だけは避けて通れないのが実状ですし実際、一昨年くらいまで新潟県の有機の基準は「種子消毒は除く」でした。野菜の場合などは、大手種苗会社の種子を使用(購入)した場合は発芽率の確保のためほとんどが「種子消毒済み」ですし、一代交配種が主流なので自家採取出来ない。(蒔いたけど生えなかったら保証問題だぜ、なんせ作る側は生活がかかってるんですから。だから種子消毒は避けて通れないわけです。)買った時点で既に処理済みなら栽培する以前の問題です。種子消毒済みの種を使った場合でも農家がそれを蒔いて無農薬で育てた場合当然有機無農薬「栽培」になります。栽培ですから、種まき以前のコトは農家にはなんの責任もございません。だから今の有機の基準なんてモンは生産現場の実状にあってないって。

播種後3日くらい経過した種もみ「緑のが芽」で上へ、「白いのが根」で下へ。誰に教わることもなく、それぞれ正しい方向へ伸びていこうとしている図。生物の持つ生きていこうとする力はすごい。
  
種まきが済んだら育苗期間になりますが播種して加温の有無に関わらず3ー4cmくらいにのびるまでは遮光しておきます。この時期に強い日光に当たると何故か葉緑素がフっ飛んで「白い苗」が多発します。きれいな緑の芽が生えそろうと被覆剤を取ってあげます。被覆を取って日光を充分に浴びさせて、葉が乾燥で撚(よ)れるない程度に灌水します。後は植え付けに適した草丈や葉令(葉っぱの数)になるまで世話をします。播種してから植えるまでの日数は、地方や時期や品種、栽培方法等で異なりますがウチらの稚苗(ちびょう)植で20−25日苗を植えるのが一般的な様です。

 

 機械で植える苗の種類は大きく分けて3つに分類出来ます。
一般的に行われている機械植えが「稚苗」(ちびょう)で葉令(葉の数)が2−4.5で草丈8−20cmの苗を使います。この場合種籾の胚乳の養分は使い切っており育苗培土(床土)に含まれる肥料分で生育しています。これ以前のまだ胚乳の栄養分で生育している期間を「乳苗」と呼び、この時期に田植えをする「乳苗植え」もあります。育苗期間を短くできるメリットがありますが、加温、棚差しで短期間に草丈を延ばす必要もあります。逆に1ヶ月ほどの育苗期間をとって昔手植えをしていた頃と同等まで大きく育てた苗を植える「成苗」もあります。この場合上記2つと違い専用の機械が必要ですし植え付ける間隔「株間」も乳苗や稚苗が機械植で一般的な15cm前後なのに対して手植えと同等の30cmで植えるため1株でも欠株が生じると株間が60cm空くので植え付け精度を上げる必要もあります。地方によって栽培方法や作期が異なるのでどれが一番いいかとは一概には言えません。
 ウチら三重県は全国的に見てもかなりの早期栽培地帯。俗にいう早場米(はやばまい)地帯です。理由は台風の被害を避けるってコトになっていますが、台風なんちゅうモンは早ければ6月にでも来る訳で、まぁ、一般に少し前までは南九州や四国の超早場を除けば「早場米は、値が良い。高く売れる」ってことで早期栽培が定着しています。でも今やその御利益もほとんどないのが実状ですが・・
  数年前までウチらで田植えのピークがゴールデンウィークでしたのが兼業農家の皆様、連休に遊びに行かなくてはならない(?)ため連休前がピークになっちゃいました。別に人んちの段取りなんて、「どーでもええ」んだけど最近農協の育苗センターまでもが「5月3日までに苗を引き取ってください。」ってふざけたコトを言いなさる。私ら専業にすれば「ナメとんのか、おまえらぁ」のノリです。(私ら専業でも種子更新の意味もあり100枚単位の数で苗を買ってます。)
 で、今や兼業農家でもほとんどがここ2,3年で廉価版の乗用タイプが出たため乗用の田植機に変わりました。確かに歩行型と価格があんまり変わらなかったら誰でもラクの出来る乗用が買いたくなるのは当然の流れ。

ウチで使っているのが8条の合体変形タイプのこの機種。植え付け部分が4条づつ2つに折り畳める超かっこええギミック付きなので、これにしました。と言うわけぢゃありません。この機種は第2PTOシャフト付きで管理用ビークル兼用型でトラクターみたいに植え付け部分がクイックヒッチでワンタッチ(でもないけど)で外れて他の作業機が使える。ウチでは散粒機を付けてます。 故に合体変形タイプ。で、ぶっちぎって植えれば1反15分、側条施肥で苗や肥料を継いだりフツーに植えて30分/反も見ておけば充分。
  隣の田んぼや同じ沖(団地)内なら植え付け部を広げたま移動出来るんですが沖が変わるとイヤでも折り畳まないと行けない。8条で全幅280cm以上。なんぼ横着なワタシでも、ちょっと公道よー走らん。
 写真右は10条植えですが(カタログより)まぁこんな感じになります。左はリヤビュー。折り畳み手順を少しでも間違うとアウト。開く時も同様。慣れるまでは、ほとんどパズル。慣れれば2−3分で変形出来ますが、折り畳むときは結合部分や触る所を洗っておかないと上半身ドロだらけ。故こいつが一番頻繁に洗ってもらっている待遇のいい機械です。
 でも誰が考えたのか折り畳んだら左右のレバーの間は指一本分もないほどギリギリの設計。苦労の跡が忍ばれます。ホンマ、戦隊ヒーローもんのに出てくる「合体変形ロボット」ばりのコった合体変形。

つづく To Be Continue